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加害者,そのご家族へ

勾留期間は刑期に影響する?判決前の勾留が刑期に算入される場合

このページでは,

・判決前の勾留は刑期に入るのか

という点について計算式も含めて解説します。まずはこちらの事例をご覧ください。

架空の相談事例

和光市内に住んでいたAさんは,インターネットサイトを通じて,MDMAを海外から仕入れ,日本国内で売却していました。

AさんからMDMAを購入したXさんが逮捕され,Xさんの捜査の過程でXさんが所持していたMDMAがAさんから購入した物であることが発覚したため,Aさんについても捜査され,逮捕・勾留されました。



MDMAについて

MDMAとは?

MDMAは合成麻薬の一種で,その成分であるメチレンジオキシメタンフェタミの略称で,一般的にはエクスタシーなどと呼ばれています。ラムネ菓子のような外見で,内服で摂取できる手軽さがあり,クラブやフェスなどの若者が集まる場所で出回っていると言われています。

MDMAの成分は摂取することで多幸感が得られ,PTSDなどの治療・緩和薬に利用されることもあるようです。一方,覚醒剤や幻覚剤に似た成分であり,濫用した場合には精神障害や記憶障害を引き起こす恐れがある極めて危険な薬物の一種です。

財務省の発表によると,平成28年に税関で押収されたMDMA等の量は約1000錠だったのに対し,令和2年の押収量は約9万錠と急増しています。

参考:財務省の税関での薬物の摘発状況 https://www.mof.go.jp/policy/customs_tAriff/trAde/sAfe_society/mitsuyu/cy2020/kA20210217.pdf

MDMAの営利目的譲渡罪

MDMAは麻薬及び向精神薬取締法麻薬特例法により規制の対象となっており,所持,施用,譲渡,譲受,輸入等を禁止しています。

Aさんの場合はMDMAを営利目的で譲り渡しているため,営利目的譲渡罪で1年以上10年以下の懲役に処されます(情状によっては,さらに罰金も科せられます。)。



勾留期間について

被疑者は逮捕された場合,72時間以内に釈放されるか,裁判官の判断により勾留されることになります。

この勾留は,以下のように区別することができます。

①捜査段階での勾留(被疑者勾留)

逮捕直後に行われる勾留は,捜査のために行われます。

勾留の期間は,勾留請求された日(:はじめて検察官の取り調べを受けた日)から数えて10日間です。但し,その期間で捜査が終わらなかった場合には,最長10日間延長することができます。

捜査のために行われる勾留ですので,この期間に警察官や検察官などの取調べを受けることになります。

②起訴後の勾留(被告人勾留)

①の勾留期間中に捜査を行った検察官は,被疑者を釈放するか,起訴する必要があります。起訴された場合,被疑者は被告人という立場に変わり,自動的に(裁判所の職権で引き続き)勾留が行われます。

被告人勾留の期間は起訴日から2ヶ月です。但し,継続の必要がある場合には1ヶ月毎の更新ができるため,保釈等による釈放が認められなかった場合,判決言い渡しの日まで勾留されることになります。

起訴後の勾留は公判期日の出頭を確保することも目的として行われます。

③判決言い渡し後の勾留

判決言い渡しの翌日から数えて14日間は控訴期間と言って,判決が確定していない期間になります。

勾留されていた被告人が一審判決で執行猶予が付かない懲役刑・禁錮刑(実刑判決)を言い渡された場合,控訴期間を含め,引き続き勾留されることになります。一審の判決言い渡し前に保釈されていた場合も,実刑が言い渡された時点で保釈の効力が失効するため,裁判の直後に収監手続が行われます。

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判決前の勾留が刑期に影響する?

被告人が実刑判決を受けた場合,判決確定後から,刑事収容施設(いわゆる刑務所)に収容されることになります。

本来,勾留は刑罰ではないので,判決言い渡し前の勾留の期間と実刑判決を受けた場合の刑期は無関係です。しかし,判決確定前に行われていた勾留期間(これを「未決勾留期間」と言います。)が刑期に含められる場合があります。

たとえば,判決の主文で「被告人を懲役3年に処する。未決勾留日数中90日をその刑に算入する。」と宣告された場合,本来の刑期は3年間ですが,未決勾留期間を算入した結果,刑事収容施設に服役する必要がある期間は2年9ヶ月ということになります。

一審判決の場合

この未決勾留期間を算入するか否か,算入する場合の日数については「裁定通算」と言って,裁判官の裁量にゆだねられています。(刑法21条)

実務では①及び③については未決勾留期間には算入されないため,②が問題となります。

この②についてもすべての期間が算入されるわけではなく,以下のような計算式で出た期間が用いられる場合が多いです。

起訴後の勾留日数-{30+10×(公判期日の回数-1)}

※端数は四捨五入,切り上げ,又は切り捨てされます。

この計算になる理由は,

・第一回公判については30日間

・第二回公判以降については10日間

が必要であるとして,それ以上,勾留されていた期間(最低限,裁判の準備として必要だった期間以上の勾留)については刑期に算入する,というものです。

なお,執行猶予付きの禁錮刑・懲役刑であっても,未決勾留期間が算入される場合があります。

控訴審の場合

勾留されていた被告人が実刑判決を受けて控訴した場合,引き続き勾留されることになります。

控訴審については,一審判決言い渡しを受けた日~控訴手続した日の前日が「法定通算」と定められています。法定通算の期間は必ず刑期に算入されます。(刑事訴訟法495条各項)よって,実刑判決を受けて控訴する場合には,控訴期間ギリギリに控訴した方が,刑期が短くなります。

また,検察官が控訴した場合と,控訴審の判決が「一審判決を取り消して判決しなおす」というものだった場合については,未決勾留期間は全て法定通算とされるため必ず刑期に含まれます。

控訴した日~控訴審判決言い渡しの前日については未決勾留期間で,一審と同様に裁判官の裁量で決められる裁定通算にあたります。控訴審の未決勾留期間は60日前後算入される場合が一般的です。

上告審

上告審の場合も,法定通算の期間については控訴審同様刑期に算入されます。

一方で,上告申立てから判決言い渡しまでの未決勾留期間が長期に亘る場合を除き,裁定通算は認められない場合がほとんどです。

まとめ

MDMAは合成麻薬の一種で,濫用することで精神障害や記憶障害を引き起こす可能性がある危険な薬物です。

MDMAの所持,施用,譲渡,譲受,輸入等は,麻薬及び向精神薬取締法や麻薬特例法により禁止されています。

判決言い渡し前に行われる勾留の手続きは刑罰ではありませんが,判決で未決勾留期間を刑期に算入される場合があります。

算入される期間は裁判官の裁量で決められる「裁定通算」と法律上必ず算入される「法定通算」があります。

実際にどれくらいの日数が算入されるのかについては,事件の性質等によって異なるため,弁護士に相談することをお勧めします。

第二東京弁護士会所属弁護士
足立直矢
東京を中心に刑事事件をのみを取り扱う弁護士事務所に所属。 刑事事件全般を得意として裁判員裁判事件,否認事件,少年事件,外国人事件など取り扱い経験は多岐にわたる。裁判に留まらず,判決が出た後の更生支援まで含めた弁護を目指している。